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会長声明・決議・意見書

秋田県の消費者行政を充実強化させることを求める意見書

2022年3月28日 公開 

第1 意見の趣旨
   秋田県は、消費生活における県民の安全安心を図るため、消費者行政を充実強化すべきであり、具体的には以下の措置を講ずべきである。
 1 消費者行政予算を増額すること
 2 消費者行政担当職員に対し、消費者行政についての研修を行う、専門性を身につけた職員が途切れることなく配属されるような人事を行う等、専門性を高めるよう配慮すること
第2 意見の理由
 1 秋田県の責務
   秋田県は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力等の格差にかんがみ、消費者の利益の擁護及び増進に関し、基本理念を定め、並びに県、市町村及び事業者の責務並びに事業者団体、消費者及び消費者団体の役割を明らかにするとともに、県の実施する施策について必要な事項を定めることにより、県民の消費生活の安定及び向上を図ることを目的として、秋田県民の消費生活の安定及び向上に関する条例(以下、「条例」という。)を定めている(条例1条)。そして、秋田県は、経済社会の発展に即応して、県民の消費生活の安定及び向上を図るための総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有している(条例3条1項)。
   消費生活部門を所掌する部署としては、秋田県生活環境部県民生活課消費生活班が、消費生活の安定向上に関する事業、特定商取引法や割賦販売法、景品表示法などの消費生活関連法、食品表示制度、貸金業、生活センターの業務を担当することとなっており、具体的な施策を実施している。
 2 秋田県における法執行状況
   しかし、残念ながら、秋田県内においては、毎年多数の悪質商法に関する消費者被害相談が寄せられ、特定商取引法違反や条例違反が疑われる事案が少なからず存在するにもかかわらず、これらの業者に対する行政処分、行政指導、消費者安全法に基づく消費者事故等の通知(以下、「行政処分等」という。)がほとんどされていない状況が、平成24年以降続いている状態である。秋田県消費生活審議会において報告される秋田県の消費者行政の活動は、その中心が啓発事業であり、食品表示に関する行政指導を別として、悪質商法被害に対する行政指導・行政処分はほとんどなされていない。
 3 秋田県の消費者行政予算が著しく低いこと
   この点、令和3年11月消費者庁が公表した「令和3年度地方消費者行政の現況調査」(以下、「消費者庁調査」という。)によれば、消費者行政予算は別紙1、2のとおりとなっている。
   秋田県においては、令和3年度の消費者行政予算は、自主財源については青森県の42.1%、岩手県の47.3%、山形県の60.8%しかなく、国からの交付金を合わせた総額では青森県の51.3%、岩手県の40.1%、山形県の72.5%しかなく、東北の同規模の地域に比較して著しく低いものとなっている。この傾向は、平成21年度からほとんど変わっておらず、秋田県の消費者行政予算は著しく低い状態が続いている。
   このような予算の状況に加え、平成24年以降、悪質商法被害に関する行政処分等がほとんどなされていないことからは、十分な法執行ができるだけの体制整備がなされていないままとなっているのではないかとの疑念を持たざるを得ない。
   他の地域では厳しく取り締まられるのに、秋田県では処分はされないという認識が、悪質業者側に広がっている可能性がある。このような状況は、秋田県民の消費生活を脅かすものであり、秋田県がその責務を十分に果たしているとは言いがたい。
 4 消費者行政の専門性
   一般に、行政職員は3年ないし4年程度で定期的に部署を異動することが通例である。このこと自体は、個々の職員が様々な部署を経験し広く知見を高め、様々なことに対応できる公務員を育成するものとして、有意義な方針であることは間違いない。また、人事を固定化することによる利害関係人との癒着の危険を避け、公正な職務執行を図るためにも、重要なことである。
   他方で、専門性の高い分野について職務を十分に行うことができるようになるには相当の期間を要することから、短期間に異動するのではなく、高めた知見を十分に生かせるような人事を行うことが合理的である。
   この点、消費者行政は、消費者関連法規の理解のみならず、法令違反行為の事実調査、関係者からの聞き取り等、違反事実認定のための証拠収集、整理の作業が必要となる。これが十分にできなければ、適切な行政処分等を行うことは困難となる。仮に不十分な内容で行政処分等を行った場合には、審査請求や処分取消訴訟、さらには、国家賠償請求を受けるリスクもある。そのため、いわば犯罪捜査にも準ずるような、高度の専門性が求められることになる。消費者行政を担当する職員が、その知見・能力を身につけるためには相当程度の経験を要することは明らかである。ところが、秋田県においては、消費者行政においても定期異動を繰り返しており、知見を身につけつつあるところで部署を離れてしまう状態になっているとのことである。
   また、秋田県の消費者行政は啓発事業が中心となっているが、これは、職員の専門性が比較的高くなくても行いやすいことがその要因と思われる。啓発事業は悪質商法被害の住民の認知度を高めるものとして有益であるが、啓発事業によっても届かない住民が悪質商法被害に遭いやすい実態がある。適切な法執行がなされることと相まって初めて啓発事業はその効果を発揮するものである。
   以上、秋田県において、悪質商法被害に対する行政処分等がほとんどなされない状況が続いているのは、職員の専門性を高めるための対策が特段なされていないことが原因となっているように思われる。
   この点、北海道、札幌市では、専門性を高めた行政職員が配属され、適切に職務を行っている状況が報告されている。これらの地域では、特定商取引法違反や消費者保護条例違反に対する行政指導・処分を毎年継続的に行っており、そのため、悪質商法に対する住民の意識も高く、住民の消費生活の安全が図られているとのことである。どちらが地域住民の消費生活の安全安心にとって望ましい自治体であるかは明らかであろう。
   秋田県の悪質業者に対する行政処分等がほとんどなされていない現状を改善するためには、行政職員に対し、恒常的に行政処分等を行っている自治体への視察や職員を招いての研修を行うことや、専門性を身につけた職員が途切れることなく配属されるような人事を行うというような、専門性を高めるための対策が必要である。
 5 結論
   以上、秋田県においては、消費者行政を充実強化させる必要があるというべきである。そのために、消費者行政予算を増額し、消費者行政担当職員について専門性を高めるように配慮することで、消費者行政部門の体制を強化し、法執行力を強化すべきである。
                                                                                            以上
2022年(令和4年)3月28日
秋田弁護士会
会長 山 本 ? 弘
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