SNSやマッチングアプリで出会った相手と親しい関係となった後に「将来のため」等の理由で投資を持ち掛けられ、様々な名目で金銭の支払いを要求される等した後、最終的に相手や投資サイトと連絡が取れなくなり出資金が回収できなくなるという、いわゆる国際ロマンス詐欺の被害が急増しています。
近時、詐欺の手口は多様化しており、国際ロマンス詐欺の手口以外にも、投資話や副業話を持ちかけ、最初は期待した通りの金員を支払い信用させつつ、その後、違約金や手数料などと色々と理由をつけては、金員をだまし取るという類型の手口も急増しているようです。
このような詐欺案件を取り扱うとするウェブ上の弁護士業務広告の中には、以下の通り、弁護士法、弁護士職務基本規程(以下、「基本規程」といいます。)、または弁護士の業務広告に関する規程(以下、「広告規程」といいます。)に違反するおそれのあるものが散見され、他の複数の弁護士会においても問題となっています。
1.取扱事例として、架空の事例が表示されている(事実に合致していない広告・広告規程第3条1号)
2.弁護士が一人しかいないのに、24時間365日相談対応と表示されている(事実に合致していない広告・広告規程第3条第1項)
3.これから取り扱おうとする案件であるにもかかわらず、「専門分野」、「専門弁護士」、「国際ロマンス詐欺に特化した弁護士」などと表示されている(誤導または誤認のおそれのある広告・広告規程第3条第2号)
4.現実に十分な回収ができるケースが少数であるにもかかわらず、取扱事例として、「被害金額1300万円で1100万円回収」、「被害金額500万円で400万円回収」、「被害金額300万円全額回収」といった他の詐欺事案で高額回収ができた事例をあたかも国際ロマンス詐欺事案で回収したもののように表示し、その例と同じような結果をもたらすと思わせるような表現をしている(事実に合致していない広告・広告規程第3条第1項、誤導または誤認のおそれのある広告・広告規程第3条第2号)
5.「LINEで相談」と表示されているにもかかわらず、実際には事務職員がLINEのメッセージを作成しており、弁護士が対応していない(事務職員等の指導監督・基本規程第19条、非弁提携・弁護士法第27条)
6.広告に表示された電話番号に架電すると、「○○弁護士相談室です。」などと事務職員が応対して相談を受けるが、広告主は、勤務弁護士であるにもかかわらず、登録事務所以外の事務所を賃借して、そこに電話を引き込み、事務職員を常駐させている(複数事務所・弁護士法第20条第3項、非弁提携・弁護士法第27条、事務職員等の指導監督・基本規程第19条)
このような広告を行っている弁護士の中には、業者と提携し、業者が手配する事務員に処理を任せ、弁護士が案件の処理に直接関わっていない者もいるようです。事務員にできることは、相談者の住所・氏名・電話番号を聞き、依頼内容の種類や概要を聞く程度にすぎず、事件の見通しの説明や着手金の決定、委任契約書の締結などは弁護士にしかできません。
事件を弁護士に委任するにあたっては、直接弁護士から事件の見通しの説明を受け、着手金や報酬金についても説明を受け、委任契約書の内容を協議したうえで、委任契約書を締結するようにしてください。
最近、各弁護士会の市民相談窓口において、投資や副業、国際ロマンス詐欺に代表される詐欺案件に関する相談が数多く寄せられていることが報告されています。相談の一例としては、以下のとおりです。
? 詐欺被害に気づき、深夜にあわてて弁護士に委任し、電子契約を締結し、着手金を支払ったが、冷静に考えてみると高額に過ぎる
? 委任契約後、間もなく解約を申し入れたが、口座凍結手続や内容証明郵便の発送等に着手したと言われ、ほとんど返金を受けられなかった
? 弁護士に高額の着手金を支払ったものの、直接弁護士とやりとりをすることはなく、事務員が対応するのみで進展がない
投資や副業、国際ロマンス詐欺に代表される詐欺案件には、次のような特徴があります。
1.口座凍結しても残高は少ない場合がほとんどであり、暗号資産で送金した場合は交換所の追跡はできても詐欺師の特定はできない、など他の特殊詐欺事案に比較して投資や副業、国際ロマンス詐欺に代表される詐欺案件は被害金の回収が極めて困難であること。
2.非弁業者と提携して投資や副業、国際ロマンス詐欺に代表される詐欺案件を多く受任している弁護士は、回収の困難性を依頼者に説明せず、被害者に期待を持たせた上で、被害額(国際ロマンス詐欺その他詐欺は被害額が多くなる傾向がある)に比例した高額な着手金を受領している例が多いこと。
3.高額の着手金を支払ったのに回収されずに放置されている、委任契約後間もなく解約をしても、支払った着手金のほとんどが返金されないという被害者の苦情が、弁護士会の市民窓口に多く寄せられていること。
詐欺被害に気づき、慌てて検索した法律事務所のホームページ上で、あたかも回収可能性が高いことを謳った広告をみれば、藁をもすがるおもいで、その広告を掲載している弁護士に相談をされることと思います。
しかし、弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び費用について、適切な説明をしなければなりません(日本弁護士連合会の弁護士職務基本規程29条1項)。また、弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにもかかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはなりません(同条3項)。
そのため、投資や副業、国際ロマンス詐欺に代表される詐欺案件の被害に遭われ、被害の回復を弁護士に依頼する方は、依頼する予定の弁護士から、事件処理の進め方、被害回復の可能性を含めた見通し、これらを踏まえた着手金・報酬金の妥当性について十分な説明を受けた上で依頼の検討をいただくよう、お願いいたします。
特に、深夜に相談をして、すぐに電子契約のうえ弁護士に依頼することを勧められた場合には、一旦冷静になってお考えいただくことを、強くおすすめします。
なお、このお知らせは、当会よりも先行してこの問題の調査・対応を進めている日本弁護士連合会や、他の弁護士会が公開している情報を参考にさせていただき掲載しています。
<日本弁護士連合会のHP>
https://www.nichibenren.or.jp/activity/human/consumer/01.html
<参考条文>
弁護士法
(法律事務所)
第二十条 弁護士の事務所は、法律事務所と称する。
二 法律事務所は、その弁護士の所属弁護士会の地域内に設けなければならない。
三 弁護士は、いかなる名義をもつてしても、二箇以上の法律事務所を設けることができない。但し、他の弁護士の法律事務所において執務することを妨げない。
(非弁護士との提携の禁止)
第二十七条 弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
日弁連 弁護士職務基本規程
(事務職員等の指導監督)
第十九条 弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に及び、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし、若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければならない。
日弁連 弁護士の業務広告に関する規程
(禁止される広告)
第三条 弁護士等は、次に掲げる広告をすることができない。
一 事実に合致していない広告
二 誤導又は誤認のおそれのある広告
三 誇大又は過度な期待を抱かせる広告