最低賃金の大幅な引上げと全国一律最低賃金制度の実施を求める会長声明
1 厚生労働省が発表した「毎月勤労統計調査2025年分結果確報」(事業所規模5人以上)によると、物価の変動を考慮した実質賃金は、前年度から0.5%の減少となり、4年連続での前年度比マイナスとなった。近年の急激な物価高騰の中でこうした実質賃金の下落が続く状況は、労働者の生活を著しく圧迫しており、賃金引上げの必要性は極めて切実である。
現在の秋田県の地域別最低賃金は1時間1031円であるが、この金額では、仮に1日8時間、週40時間の1か月フルタイム(厚生労働省が用いる最長所定労働時間月173.8時間)で働いたとしても、賃金は月額約17万9000円、年額約215万円にしかならない。
最低賃金を決定する際の重要な要素は労働者の生計費(生活のために必要な費用)であるが、例えば秋田県労働組合総連合(秋田県労連)が東北六県共同で2022年に実施した生計費試算調査によれば、秋田市在住・25歳単身の若者の生計費は時給1691円が必要であることが明らかになったとされている。上記の最低賃金の水準は労働者の生計費に対して絶対的に不足しており、最低賃金制度をセーフティーネットとして実効的に機能させるためには、最低賃金の大幅な引上げが急務である。
2 また、秋田県の地域別最低賃金は、前年から80円の引上げとなり、その引上げ額は過去最大となるとともに、全国最下位を脱するに至った。しかしながら、依然として全国最高額の東京都の1時間1226円を195円も下回っており、地域間格差の是正には全く至っていない。さらに、前年度の秋田県の最低賃金の発効日は全国で最も遅い時期となったため、引上げの効果が労働者に及ぶまでに他県より時間を要したことも指摘しなければならない。
上記の秋田県労連等の調査によれば、地方では都市部に比べ住居費は低廉であるものの、公共交通機関の利用が制限されることから自家用車の保有を余儀なくされるため、地方と都市部の生計費には地域間格差がほとんど存在しないことが判明している。したがって、地域間での生計費の差を前提とした地域別最低賃金制度はその立法事実を欠いていると言わざるを得ない。
また、秋田県が新秋田元気創造プラン(2022年~2025年度)や政府予算等に関する要望書などで指摘するとおり、全国下位にある賃金水準は、若者などの人口の社会減の大きな要因の一つになっていると考えられる。
政府は賃金の地域間格差を早急に是正するために、地域別最低賃金制度を根本的に見直し、全国一律最低賃金制度を実現すべきである。
3 一方で、最低賃金の大幅な引上げは、労働者の生活だけでなく経済に影響を与える可能性が大きく、特に、中小企業の経営維持には配慮しなければならない。実際、秋田県においても事業者向けの緊急支援金制度が創設されたが、制度の周知不足等により申請件数は、受付が開始された本年1月5日以降、4月17日時点で想定の約1割程度にとどまっているとされており、支援策が十分に機能しているとは言い難い。さらに、中東情勢の緊迫化による燃料費・資材費の高騰や原材料の調達難も深刻化しており、秋田県内企業の約75%が事業への影響を受けていることが明らかとなっている(秋田魁新報2026年5月27日付)。こうした重層的なコスト上昇が、事業者の経営をより一層圧迫している。この点、中小企業が最低賃金の大幅な引上げに対応できるようにするために、原材料価格や労務費などの上昇分を取引価格に転嫁できる公正な取引を確保するとともに、社会保険料の事業主負担分の減免などの、抜本的な中小企業支援策を実現することが不可欠である。
4 以上より、当会は、労働者の健康で文化的な生活の確保を実現するとともに秋田県の地域経済の健全な発展を持続させるため、秋田地方最低賃金審議会に対し秋田県の地域別最低賃金の大幅な引上げを答申することを求めるとともに、中央最低賃金審議会に対し地域間格差を縮小しながら全国全ての地域において最低賃金の引上げを答申すること及び全国一律最低賃金制度の実施に向けた提言をなすことを求めるものである。
2026年(令和8年)6月26日
秋田弁護士会
会長 山 本 尚 子