国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める会長声明
国選弁護制度は我が国の刑事司法において極めて重要な役割を担っている。
要請される弁護活動の内容も、被告人国選弁護しか制度的に保障されていなかった時代と比べ、現在では各段に発展し、高度化をみせている。
逮捕直後から弁護士を派遣することはもとより、弁護活動の内容面においても、たとえば、科学技術の進展に伴い、捜査証拠として防犯カメラや取調べ録音録画といった映像証拠が請求されることが一般化され、その丹念な分析が要請される。高度な科学鑑定の解析には、専門家への相談も含めた対応が必要となる。
また、いわゆる入口支援、出口支援と呼ばれる更生支援の局面においては、心理的・医学的研究の発展に合わせ、被疑者・被告人の個性に応じた適切な環境調整が求められる。行政や民間専門家との連携を試みる場合も少なくない。
当会ではこれまで、独自の予算を通じて、時代の進展に拘わらず資力に乏しい市民が費用負担の心配なく充実した弁護人依頼権を享受できる体制の拡充に注力してきた。今後も不断の努力を積み重ねていく所存である。
しかし、そもそもこうした対応体制は、それに相応しい経済的基盤が国家予算を投じて用意されなくてはならないはずである。
ところが、国選弁護事件の平均的な報酬は、20年以上にもわたって非常に低額な状態が続いている。
例えば、被疑者段階における国選弁護人の報酬は、基本的に被疑者との接見の回数を基準に定まる。しかし、弁護人の活動は単純に接見の回数によって図れるものではない。事件関係者との接触や打ち合わせ、現地調査などの準備活動は時に多大な労力を伴うものであるが、こうした弁護活動上の労力が適正に評価されているとは到底いい難い。
また、被告人段階における報酬は、主として公判出頭回数で算定されるが、接見の回数は何ら考慮されない。公判段階においては、刑事記録が開示され、これを元に被告人と打ち合わせを行うのが必須であるのだから、当然接見報酬も出されるべきである。この他、保釈請求は、これが奏功した場合でなければ報酬が支給されないなど、加算報酬項目にも不十分な点が多い。
しかも、現行の報酬体系は、近時の物価高にすら対応していない。最低賃金(全国加重平均額)でさえ、物価高に対応する形で2021年から現在まで約13パーセント程度の上昇をしていることに比べ不合理であるというほかない。
さらに、当会のような小規模単位会では、共犯事件や利害相反関係で支部の弁護士が受任できず、本庁の弁護士が事件を受任し遠方の支部に接見に行かなくてはならない場合がある。また、支部の事件が本庁で起訴され、支部の弁護士が本庁の刑事施設に赴かざるを得ないなどの遠距離接見の必要が生じることもある。このような場合の負担は大きい。そのため、地域的にみても報酬増額の必要性は高い。
以上のように、報酬体系は本来適正な労力を反映したものでなければならないはずであるものの、現行の報酬体系は実態と乖離しており、不合理なまでに低廉な水準にとどまっている。その結果、国が制度として保障すべき弁護活動の経済的基盤が整備されないまま、個々の弁護士の自助努力にその負担が転嫁されている状況にある。
また、近時、佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA鑑定で不正行為が発覚したが、現行の国選弁護費用体系では、当事者鑑定の費用をはじめ、本来行われるべき多くの弁護活動の費用が賄われず、捜査機関側と比べて極めて不公平なものとなっている。
以上のような脆弱な費用体系もまた、本来あるべき弁護活動を断念せざるを得ない要因となっており、被疑者・被告人の弁護人依頼権の見地からきわめて不合理といわざるを得ない。
そもそも、国選弁護業務のための予算は160億円前後と極めて僅少な額で推移している。膨張を続ける100兆円規模の国家予算に占める割合も年々低下しており、人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れているという他ない。
よって、当会は、被疑者・被告人の更なる権利擁護と公正な刑事司法制度実現のため、国会、法務省、財務省等に対し、国選弁護制度の基礎報酬及び各種弁護費用の抜本的改善を求める。
令和8年3月2日
秋田弁護士会
会長 竹田 勝美