秘密保全法制定に反対する会長声明

2012年5月21日 公開
 2011年(平成23年)8月8日、「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」は、「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」を発表し、これを受けて、政府は秘密保全法制の法案化作業を進めてきた。今国会への法案提出は見送るとの報道はなされたものの、政府による正式表明ではなく、法案化が断念されたわけではない。
 以下で述べるとおり、報告書が整備を求める秘密保全法制(以下、「当該秘密保全法制」という)は、国民主権原理から導かれる知る権利を侵害するなど、憲法上の諸原理と正面から衝突する多くの問題点を有しており、当会としては、このような重大な問題を孕む当該秘密保全法の制定に反対するものである。

1 当該秘密保全法制は、対象となる秘密(特別秘密)について、その対象を「国の安全」、「外交」、「公共の安全及び秩序の維持」の3分野としている。しかし、その概念、特に「公共の安全及び秩序の維持」という概念は曖昧であり、解釈・運用によっては、あらゆる分野の事項が対象となりかねない。さらに、特別秘密の指定権者は当該行政機関等とされており、第三者がチェックする仕組みもないことから、行政機関等の恣意的判断・運用により、国民が必要とする情報が秘匿される危険性がある。

2 特別秘密の概念が曖昧かつ広範であることから、その漏洩行為に対して厳しい罰則規定を設けることは、罪刑法定主義の観点からも大いに問題がある。さらに、禁止行為として、故意の漏洩行為はもとより、過失による漏洩、未遂、共謀、独立教唆及び扇動のほか、不正な方法で「特別秘密」にアクセスすることを「特定取得行為」として、その共謀や扇動までも処罰しようとしており、そこでの禁止行為は極めて不明確かつ広範であることから、処罰の対象となるのか国民には予測し得ず、その結果、国民の行動の自由が抑制される危険性がある。また、報道機関の正当な取材活動すら処罰対象となりかねず、言論の自由に対する委縮効果が大きく、国民の知る権利を侵害するおそれが極めて高い。

3 加えて、秘密保全法違反を理由に起訴された場合、対象となる「特別秘密」の内容が明らかにされないまま、裁判手続が進行してしまうことが懸念され、公開の法廷における適正な手続に従って裁判を受ける権利を侵害するおそれもある。

4 当該秘密保全法制は、特別秘密を取り扱う者(対象者)自体の管理を徹底することが重要であるとし、「適性評価制度」の導入を提案している。しかし、同制度における調査事項は、外国への渡航歴や信用状態など広範に及び、また、対象者のみならず、配偶者など対象者の行動に影響を与え得る者に対してまで調査を許容するものとなっており、関係者のプライバシー情報が過度に侵害される危険性がある。さらに、当該秘密保全法制は適性評価の観点として、「我が国の不利益となる行動をしないこと」を掲げているが、何が「我が国の不利益」なのかは実施権者の裁量に委ねられており、その者の恣意的判断により、思想・信条を理由とした差別的取扱いがなされるおそれもある。

5 そもそも、当該秘密保全法制検討のきっかけとなった尖閣沖漁船衝突事件に係る映像流出は、国家機密の漏洩とは到底言えないものであり、むしろ政府が情報公開を適切に行わなかったことにより生じた事案であったと考えるべきである。当該秘密保全法制は立法を必要とする理由を欠いており、仮に国家秘密とされるべきものがあるとしても、国家公務員法等の現行の法制度で十分対応可能であることから、秘密保全のための新たな法制を設ける必要性は存しない。

 以上の理由から、当会は当該秘密保全法の制定に反対するものであり、かかる法案が国会に提出されないよう強く求めるものである。

2012年(平成24年)5月21日
 秋田弁護士会
   会長 近 江 直 人

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