取調べの可視化の実現を求める会長声明

2008年6月12日 公開
 現在の刑事裁判は、弁護士の立会いを排除し外部との連絡を遮断した密室での取調べにおける被疑者の供述調書に大きく依存している。そのため、捜査官による威圧や利益誘導などの違法・不当な取調べによって虚偽自白が誘発され、多くの冤罪を生み出してきた。このことは、歴史が示すとおりであり、最近の鹿児島選挙違反事件(志布志事件)、富山氷見事件(再審)、佐賀北方事件における無罪判決はその例である。 
 このような違法・不当な取調べを止めさせ、虚偽自白による冤罪の悲劇を防ぐためには、取調べの状況を外部から監視できるようにし、密室での取調べをなくすことが不可欠であり、そのためには、取調べの全過程を録画・録音すること(取調べの全過程の可視化)が最良の方法である。
 また、取調べの全過程の可視化は、「自白」の任意性・信用性を争って審理が長期間に及ぶことを避けることができ、審理の迅速化にも資する。平成21年5月に開始される裁判員制度では、裁判員に過大な負担を課すことは避けなければならず、取調べの全過程の可視化は、裁判員制度の円滑な運営のためにも不可欠である。
 検察庁は、平成18年7月以降、取調べの一部の録画・録音を試行的に実施している。しかし、それは、検察庁の裁量によるものであるところ、「可視化」の主要目的は、捜査官の取調べ状況の監視であるから、そのための手段である録画・録音を行うか否かを捜査機関の裁量に委ねるのは背理である。録画・録音の対象を捜査機関が取捨選択するのでは、取調べの全過程のうち、捜査機関が立証に資すると判断した部分だけが映像化・音声化の対象とされることになる。この場合、録画された映像や録音された音声は、それ自体の感銘力によって、裁判員の判断に大きな影響を与えると予想され、全過程を検証すれば、違法・不当な取調べが行われていることが判明するにもかかわらず、選択された一部の映像や音声によって、適法・適正な取調べが行われたと誤認させることとなり、却って違法・不当な取調べを隠蔽し助長する結果となりかねない。
 一部の「可視化」は、十分な可視化でないことは勿論、不十分ではあるが「可視化の第一歩」とすら評価できるものではなく、可視化の反対概念である隠蔽化ないし密室化の手段となる恐れさえある。
 世界的な潮流を見ても、イギリス、アメリカの多くの州、イタリア、オーストラリア、香港、台湾、韓国等で取調べの録画や録音を義務付ける改革が既に行われている。
 よって、当会は、早急に、警察・検察による取調べの全過程の録画・録音を義務付ける立法が整備され、取調べの全過程の可視化が実現されることを求める。

2008年(平成20年)6月12日
 秋田弁護士会
   会長 佐々木  優

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