秋田弁護士会

新屋演習場へのイージス・アショア配備に反対する会長声明

2019年3月20日 公開

1 はじめに

 2017年12月,政府は,北朝鮮の弾道ミサイル攻撃に対する防衛力を強化するためとして,陸上配備型イージス・システム「イージス・アショア」を2基導入することを閣議決定し,2018年5月には,防衛省が,秋田県の陸自新屋演習場と山口県の陸自むつみ演習場を配備候補地として決定したと表明した。同年12月に閣議決定された2019年度予算案には,イージス・アショア取得関連予算として1757億円が計上された。防衛省は,両候補地について各種調査を実施し,2019年度の早い時期に「適地」か否かの結論を出す予定としている。

 しかし,以下に述べるとおり,新屋演習場へのイージス・アショア配備には重大な問題がある。

2 新屋演習場が特殊な位置関係にあることの問題

  新屋演習場は,面積約1平方㎞,日本海沿いに南北2㎞,東西800mの細長い地形である。隣接する勝平地区には約5400世帯1万3千人が住み,演習場の端から最も近い住宅地までは約300mである。演習場中心部から半径1㎞圏内には小学校,高等学校があり,3㎞圏内には秋田県庁,秋田市役所,県警本部といった行政の中枢機関や総合病院がある。また,演習場に沿うように延びる国道7号線は,1日当たり約1万7千台が通行する主要幹線道路である。

  イージス・アショアは,弾道ミサイルを探知するため,24時間レーダーが運用されることが想定されているが,その電磁波により,秋田空港離発着の航空機やドクターヘリの飛行,防災無線やテレビの受信などに支障が生じる恐れがある。防衛省の説明によれば,飛行制限区域の設定やドクターヘリなどの緊急時の飛行にはレーダーの照射を中止する等の措置を検討するとしているが,いずれも,地域住民の生活に支障を及ぼすものである。また,電磁波による付近住民の健康被害も強く懸念される。

さらに,イージス・アショアに搭載される迎撃用ミサイルSM-3ブロックⅡAは,ブースターエンジンで打ち上げられるが,同ミサイルが垂直に近い形で打ち上げられることから,1段目ブースターは発射地点近傍に落下する可能性が高い。

このように,イージス・アショアを新屋演習場に設置することは,住民の日常生活,安全,防災そして健康被害の発生の危険性を高めるものであり,周辺住民はブースターの落下の危険性にもさらされることになる。

  加えて,イージス・アショアは,開戦時には敵国からの第一攻撃目標とされ,平時においても破壊活動の対象となる危険が高い。新屋演習場の施設が攻撃され,防衛に失敗した場合の人的物的被害は甚大であり,秋田市の存続すら危ぶまれ,秋田県全域が機能麻痺に追い込まれることが想定される。秋田県民は,第2次世界大戦終戦前夜の土崎空襲を経験しており,当時のように戦時の攻撃目標とされることに対して強い不安を抱いている。

  ちなみに,ルーマニアに既に配備されているイージス・アショアは,約9万平方㎞のルーマニア軍デベセル基地内にある米軍基地の中に設置されており,周辺は広大な原野で民家はなく,最も近いデベセル村まで約4㎞程度離れている。

以上からして,新屋演習場は,住宅地に隣接するという特殊な位置関係にあることや,周辺住民の生活に及ぼす影響などを考慮すれば,イージス・アショア配備の「適地」であるとは到底考えられない。

3 イージス・アショア配備の目的・必要性と憲法上の問題

防衛省は,イージス・アショア配備は北朝鮮の弾道ミサイル発射に対する日本の防衛のために必要であると説明している。

しかし,北朝鮮をめぐる国際情勢は流動化しており,そもそも,この問題については,外交交渉による平和的解決を図ることこそが憲法の基本原理である国際協調主義,平和主義の精神にかなうものである。

さらに,イージス・アショアの配備候補地である秋田市と山口県北部は,米軍のインド太平洋司令部があるハワイ,米軍のアンダーセン空軍基地のあるグアムと北朝鮮との最短経路上に位置する。この配備候補地の位置関係を見る限り,米国の弾道ミサイル防衛システムの最前線を担う目的であることは否定できない。また,イージス・アショアは中距離巡航ミサイル「トマホーク」の発射が可能であるとされ,2018年1月,防衛大臣はイージス・アショア配備について「今は弾道ミサイル防衛で考えているが,いずれは巡航ミサイル防衛などに役立つインフラに発展させたい」と述べたとされている。このように,イージス・アショアは日本の防衛のためだけに設置するものとは考え難く,防衛省の説明は不合理である。現に,ロシアからは,日本のイージス・アショア導入は米国のミサイル防衛構想の一環であり,米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約違反であるとの警告がなされ,中国からも懸念が表明されている。

このような点からすると,イージス・アショアの国内配備は,専守防衛の範囲を超えるものとして憲法9条が禁止する戦力に該当する可能性が高く,戦争を放棄した憲法の平和主義にも反するものである。

4 地方自治の観点からの問題

政府は,国民に対し,その生命,身体,日常生活等を害されることなく平和のうちに安全に生存する権利(憲法前文,9条,13条等)を確保する責務を直接負っている。上述のような重大な危険性をはらむイージス・アショア配備によって地域住民の権利を危険にさらすことは,その責務に反するものである。

  そして,イージス・アショアの配備は,少なくとも日本全土を防衛するためとされることから,上述したような生命,身体及び財産に対する危険性や日常生活上の負担を配備候補地の住民にのみ負わせるというのであれば,特定の地方公共団体のみにかかる法律を制定するにはその地方公共団体の住民投票に過半数の同意を得なければならないとした憲法95条の趣旨に則り,配備候補地として決定する前に当該候補地の住民の同意を求めるべきと解されるが,新屋演習場の場合はそのような手続きも取られていない。

5 結論

以上のとおり,新屋演習場配備へのイージス・アショア配備は,同演習場が住宅地に隣接するという特殊な位置関係にあることから配備「適地」といえないうえ,イージス・アショア配備そのものの必要性・相当性に重大な疑問があり,憲法の国際協調主義,平和主義に反し,憲法が保障する平和のうちに安全に生存する権利に抵触する可能性が大きい。さらに,地域住民の同意を得る手続きも取られていない。

 

よって,当会は,新屋演習場へのイージス・アショア配備に反対する。

                                       以上

               

   2019年(平成31年)3月20日

                秋田弁護士会

                    会 長   赤  坂     薫

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