秋田弁護士会

(仮称)八峰能代沖洋上風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見

2018年9月25日 公開

2018年(平成30年)9月25日

 

(仮称)八峰能代沖洋上風力発電事業環境影響評価方法書に対する意見

 

   秋田弁護士会

      会長職務代行者

    副会長 西 野 大 輔

 

第1 総論的意見 

  環境影響評価法に基づく各事業のアセスメントは一般に,各事業ごとに個別に行われているのが現状である。しかし,風力発電事業において想定される環境影響(低周波音の発生,鳥類・魚類等への被害,景観の変容など)は,他事業と複合的・累積的に増大することが危惧されているところである。とりわけ,(仮称)八峰能代沖洋上風力発電事業(以下,「本対象事業」という。)実施区域周辺(能代市,八峰町,三種町等の自治体)には,既設及び計画中の風力発電設備(陸上及び洋上)が複数存在する。よって,本対象事業においても,これら他事業の諸元等の情報入手に努め,複合的・累積的な環境影響評価について適切に調査,予測及び評価をすべきである。

 

第2 各論的意見

 1 騒音及び超低周波音の調査,予測及び評価について

(1)調査・予測地点をより多くすべきである

    本対象事業での騒音及び超低周波音の調査及び予測地点は,風車設置範囲から2㎞程度の範囲に存在する住宅地及び福祉施設等で代表点を取り,「能代第一中学校周辺」,「大開地区」,「竹生小学校周辺」,「沢目駅周辺」の4地点とされている。

しかしながら,調査及び予測地点は,可能な限り多いことが望ましい。特に,老人福祉施設が点在する落合近隣公園付近にも調査地点が設定されるべきである。

(2)調査期間等が不十分である

    本対象事業では,騒音及び超低周波音の状況にかかる現地調査の調査期間等は春季及び秋季(晩秋~初冬)における各3日間とされている。また,その理由については,梅雨,セミ等虫の声,積雪等の影響が少ない調査時期を選定したからとされている。

しかしながら,環境省の「風力発電施設から発生する騒音等測定マニュアル」によれば,騒音及び超低周波音の測定は年間の風況を把握したうえで,風車が稼働する代表的な風況を把握できる時期を選定することが望ましく,原則4季毎に測定すべきとされている。本事業においても,調査時期を春季と秋季に限定する特別な理由はない。したがって,春季と秋季だけでなく,冬季と夏季も調査されるべきである。

また,上記測定マニュアルによれば,測定に有効な日数が昼夜間ともに3日間以上確保できる期間とするのが適当とされている。したがって,調査期間を最初から3日に限定すべきではない。可能であればもっと長期間の測定を検討すべきである。   

(3)風況についての調査方法等が記載されていない

    上記環境省のマニュアルによれば,残留騒音,風車騒音のいずれの場合も,測定に当たっては風車の有効風速範囲の風況下で測定する必要があるため,騒音の測定と同時期に風車のハブの高さにおける風況を把握する必要があるとされるが,本対象事業の方法書では,騒音及び超低周波音に係る調査,予測及び評価の手法において,風況の把握の手法等が記載されていない。

風況の把握なしに騒音及び超低周波音の調査,予測及び評価をするとは解されないが,重要な点についての方法が明らかにされていないのは問題である。

(4)水環境において,水中の騒音・低周波音が調査項目となっていない

    環境省は,平成29330日に「洋上風力発電所等に係る環境影響評価の基本的な考え方に関する検討会報告書」を公表したが,それによれば,「現時点では一般的な信頼性が確保される程度の知見が確立されていない」として,建設機械の稼働及び施設の稼働のいずれにおいても,水中音を評価項目として選定すべきとしている。

    しかしながら,本対象事業の方法書では,水環境における評価項目として水中音が選定されていない。海域に生息する動植物等への影響を評価する前提として,水中音を独立した評価項目とすべきである。

 2 動物の移動ルートに関する調査及び予測について

(1)本対象事業実施区域付近では,(仮称)能代港洋上風力発電事業(以下,「能代港事業」という。)及び(仮称)秋田県北部洋上風力発電事業(以下,「秋田県北部事業」という。)の環境影響評価手続が進行している。

能代港事業や秋田県北部事業が開始されることで動物の移動ルートも影響を受けるおそれがあり,能代港事業や秋田県北部事業開始後の動物の移動ルートは調査時点と異なることが予想される。そこで,動物の移動ルートに関する調査及び予測は,調査時点のものだけでなく,能代港事業及び秋田県北部事業の内容を調査し,これらの事業開始によって変動すると予測されるルートも考慮して行うべきである。

例えば鳥類では,調査時点の飛翔経路だけではなく,能代港事業及び秋田県北部事業の内容についても調査した上,能代港事業及び秋田県北部事業の風車が稼働したあとの飛翔経路も予測すべきである。

(2)また,飛翔経路の予測(能代港事業及び秋田県北部事業開始後に予測されるものを含む)については,外部専門家に意見を求め,得られた意見は予測に関する調査結果とともに環境影響評価準備書に記載すべきである

3 海域に生息する動植物等の調査,予測及び評価について

(1)調査・予測地点をより多くすべきである

本対象事業における,海域に生息する動植物等に関する調査については,8点の調査場所のうち7点は対象事業実施区域の海域にある。

しかしながら,魚類は移動するものが多いうえ,風車の影響は対象事業実施区域にとどまるものではないことから,周辺区域についてもさらに調査場所として設定すべきである。

(2)調査期間等が不十分である

調査期間について,年4回(春季,夏季,秋季,冬季)としている。

しかしながら,遡上期や産卵期など特殊な時期に関しては,魚類の行動にも変化が生じている可能性があり,この時期に調査を行う必要がある。調査時期を移動させるのではなく,特殊な時期については追加した調査をすべきである。

(3)水中騒音が海域に生息する動植物等に与える影響について調査すべきである

本対象事業調査には,音響電搬状況のバックデータとして水温・塩分の鉛直測定を実施するとある。

しかし,水中騒音(低周波音および高周波音も含む)そのものについて,海域に生息する動植物等に与える影響については,調査対象となっていない。海域に生息する動植物等に対しても,音の影響は考えられるのであるから,調査対象とすべきである。

(4)ハタハタについては,さらなる緻密な調査が必要である

ハタハタは産卵のために藻場を求めて毎年12月ころ接岸するが,この産卵という特殊な時期に,水中音,影,巨大人工物の林立と海底の微妙な変化がどのような影響を及ぼすか調査すべきである。

また,稚魚については,4月中旬から下旬まで採捕可能とのことであり調査可能であるから,4月中旬から下旬に稚魚の調査も行うべきである。

    漁協との話し合いだけではなく,洋上風力発電による風車の設置によってハタハタの生態に「影響がない」といえるまで独自に調査をすべきである。

(5)風車の林立により,海底や潮の流れに影響がでないのか,藻場の生育に影響しないのかについて,調査すべきである。

海底や潮の流れに影響があれば,それ自体で魚類等の生育環境に変化が生じる可能性がある。また,海底や潮の流れの変化によって藻場の生育に影響があるのであれば,やはり魚類等の生育環境にも変化が生じる。

事業区域を含む一帯の海域にどのような影響があるのか調査すべきである。

(6)複合的影響についても調査が必要である

本対象事業の周辺には,他にも洋上風力発電の建設が予定されている。風力発電設備が海岸一帯に並ぶことにより,海域に生息する動植物等にどのような影響が及ぶのか調査をすべきである。

 4 景観の調査,予測及び評価について

(1)能代港湾区域内の南北約6~7㎞,東西約3kmの区域内(6.6平方㎞内)には,20基の洋上風力発電機を設置する計画(能代港事業)が存在する。本対象事業は能代港事業に隣接する北方海域に計画されており,両事業は事実上一体化しているため,本対象事業のみを切り離して景観への影響を調査することは著しく不合理となる。加えて能代港事業の南方海域である能代市・三種町・男鹿市の地先海域(約15km位)に120基の洋上風力発電事業計画(秋田県北部事業)が存在する。これら三事業が実施されると秋田県北部の沿岸海域約50~60kmの区間に合計160~190基の洋上風力発電機が林立する風景となる。これは秋田の人々が1000年,2000年と眺めてきた自然の海上風景を一変するものであり,事業者は景観調査を十分に行うとともに広く秋田県民にその結果を知らせる責務がある。以下,環境影響調査に際して留意すべき事項について意見を述べたい。

(2)景観について,少なくとも秋田県北部事業,能代港事業との複合的,累積的影響を考慮すべきである。そのためには,男鹿市の入道崎・寒風山・男鹿三山・五里合海水浴場・宮沢海水浴場・宮沢海岸県民レクリエーション地,能代市の風の松原,八峰町の日本海を望む丘陵地にある五所の台ふれあいパーク・岩舘および滝の間海水浴場などからの海上・海岸・男鹿半島・白神山地等の景観につき景観合成写真,景観のパノラマ合成写真を多数作成すべきである。そのために必要な能代港事業,秋田県北部事業の景観に影響を及ぼす最新の事業計画資料等を精査すべきである。

(3)以上の他,秋田港に寄港する海上フェリーから陸側を望む場合の景観についても調査すべきである。

(4)風車機の選定や設置方法等について建設計画の細部が煮詰まっていない場合,可能性のある全てのケースについて景観影響を調査すべきである。

(5)風車が回転している場合と停止している場合の景観の相違についてあらゆる場合につき調査し,景観合成写真,景観のパノラマ合成写真等を作成すべきである。また,風車の影が景観に与える影響(魚類に対する影響調査に必要)の有無を調査すべきである。

(6)このような大規模計画が県民多数の理解を得られるとは限らないので,計画の規模を大幅に縮小した代替案についても景観に対する影響を調査し,県民の判断資料として提供すべきである。

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