秋田弁護士会

憲法96条の発議要件緩和に反対する会長声明

2013年6月24日 公開


1 日本国憲法第96条第1項第1文は、「この憲法の改正は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。」と憲法改正の発議要件を定めている。

これについて、自由民主党(以下「自民党」という。)は、2012年4月27日に発表した「日本国憲法改正草案」の中で、第96条の憲法改正の発議要件を衆参各議院の総議員の過半数にする改正案を打ち出し、6月20日には、7月の参議院選挙の公約としている。また、日本維新の会も同様の提案をしている。

2 日本国憲法は、国民に保障する基本的人権は侵すことのできない永久の権利であると定め(第11条、第97条)、憲法の最高法規性を宣言し(第98条)、裁判所に違憲立法審査権を与え(第81条)、公務員の憲法尊重擁護義務を定めている(第99条)。これらの規定は、たとえ民主的に選ばれた国家権力であっても権力が濫用されるおそれがあることから、その濫用を防止するために国家権力に縛りをかけるという立憲主義の立場を明確にしているものである。憲法第96条の改正規定は、これらの条項と一体のものとして、憲法保障の重要な役割を担うものである。

このように、憲法が国の基本的なあり方を定める最高法規であることから、その改正には、国会での審議においても、また国民投票における国民の議論においても、慎重な議論が十分に尽くされることが求められる。そのため、憲法第96条は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による発議と国民投票における過半数の賛成を必要と定めたのである。

 仮に、その時々の政権により、充実した十分な議論が尽くされないまま憲法の改正がなされるとすると、国民の基本的人権の保障や立憲主義の理念をなし崩しにされる危険があるのであって、そのような事態は絶対に避けなければならない。このような見地から、国会の発議要件を「過半数」に緩和しようとする改正案は、憲法の基本原則に抵触するものである。

3 さらに、現行の小選挙区制を前提とした選挙制度のもとでは、たとえある政党が過半数の議席を獲得したとしても、大量の死票が発生するため、その得票率は有権者の5割に到底及ばない場合があり得る。さらに、投票価値の不平等は未だ改善されていないのであるから、このような状況下で、各議院の総議員の過半数の賛成で憲法改正が発議できるとすれば、それは国民の多数の支持を得ていない改正案の発議を容認することになるおそれがある。

4 比較法的見地からしても、憲法第96条の改正を正当化する理由は見当たらない。

すなわち、諸外国の規定を見ると、法律と同じ要件で改正できる憲法(軟性憲法)は極めて少数であり、ほとんどの国が法律の制定より厳しい憲法改正要件を定めている(硬性憲法)。その内容は国によって異なるが、韓国・ルーマニア・アルバニア等では日本と同様に議会の3分の2以上の決議と国民投票を要求している。また、ベラルーシ、フィリピン等では、日本よりも更に厳しい要件を定めており、日本の憲法第96条の改正要件が、特別に厳しいものであるとは言えない。さらに、国民投票を要しないとする場合にも、再度の議決が要求されるものや、連邦制で支邦の同意が要求されるものなど様々な憲法改正手続を定めている憲法が存在する。例えば、アメリカでは、連邦議会の3分の2以上の議決と州による承認が必要とされている。

このように、世界中には様々な憲法改正規定が存在し、日本国憲法よりも改正要件が厳しい憲法も多数存在する。諸外国の憲法改正規定を根拠として、発議要件の緩和を正当化させることはできない。

5 以上のとおり、憲法第96条について提案されている改正案は、国の基本的なあり方を不安定にし、基本的人権の尊重と立憲主義に反し、許されないものである。

  当会は、憲法改正の発議要件を緩和しようとする憲法第96条改正提案には強く反対するものである。

以上

 

2013年(平成25年)6月24日
 秋田弁護士会
   会長 江 野   栄

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