秋田弁護士会

生活保護基準の引き下げに強く反対する会長声明

2012年11月26日 公開
1 政府は、本年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。
 そこでは、「特に財政に大きな負担となっている社会保障分野についても、これを聖域視することなく、生活保護の見直しをはじめとして、最大限の効率化を図る」との方針が強調されている。
 また、厚生労働省が公表した平成25年度の予算概算要求の主要事項では、「生活保護基準の検証・見直しの具体的内容については、予算編成過程で検討する」とされている。そして、本年10月5日に開催された社会保障審議会生活保護基準部会において、厚生労働省は、第1十分位層(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の所得が一番低い層の世帯)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方針を提案した(以下「厚生労働省案」という。)。
 また、財務省主計局は、本年10月22日、財政制度等審議会財政制度分科会に対し、現行の生活扶助基準額との比較対象を「第1五十分位」、すなわち厚生労働省案より更に厳しい下位2%の所得階層の消費水準とすることを提案し、医療扶助費抑制のために医療費一部自己負担の導入を提案した(以下「財務省案」という。)。
 さらに政府の行政刷新会議が本年11月17日「新仕分け」により、「低所得者との比較を厳密に行い、就労意欲をなくさない程度の水準にすべきだ」との結論が出された。
 これら一連の事実から、本年末にかけての来年度予算編成過程において、厚生労働大臣が、生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至の情勢にある。 
2 しかしながら、生活保護基準は、いうまでもなく憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、物価の変動や生活実態の変動があり、健康で文化的な最低限度の生活に必要な金額が変動したのでなければ、当該基準は最低限度の生活を画する基準であり切り下げることは許されない。
 生活保護基準が下がれば、保護が廃止される者や、保護費が減少する者が大量に発生するだけでなく、最低賃金の引き上げ目標額が下がり、労働者の労働条件にも重大な影響が及ぶことになる。
 また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、国民健康保険の保険料・一部負担金の減免基準、介護保険の利用料・保険料の減額基準、障害者自立支援法による利用料の減額基準、生活福祉資金の貸付対象基準、就学援助の給付対象基準など、医療・福祉・教育・税制などの多様な施策にも連動しているから、生活保護基準の引き下げは、これらの施策を利用している低所得層の人々にも重大な影響を与えることになる。このように、生活保護基準は、わが国の生存権保障の基盤を支える重要な基準であるから、生活保護利用当事者を含む市民各層の意見を十分に聴取したうえで、多角的かつ慎重に決せられるべきものであり、財政目的ありきで政治的に決することは到底許されない。 
3 また、捕捉率が2割ないし3割と低く、所得が保護基準を下回るのに生活保護を受給していない人の数が800万人とも1000万人とも言われる現状では、厚生労働省案(下位10%)であれ、財務省案(下位2%)であれ、最下層の低所得者の消費水準を上回らないように保護基準を引き下げることが正しいとすれば、保護基準は際限なく引き下げられることになる。
4 近年の社会経済情勢に伴い雇用が不安定化していることや、高齢化が急速に進んでいるのに年金制度による社会保障機能が脆弱であることなどを考えれば、生活保護の利用者が増加するのは、むしろ当然のことである。自由競争や自己責任が強調される一方で、貧困や格差が拡大し、本来、生活保護を利用できて然るべき人々が排除されている現状においては、むしろ、最後のセーフティーネットとされる生活保護制度の積極的な運用が期待されている。
 
 よって、本会は、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対するものである。

2012年(平成24年)11月26日
 秋田弁護士会
   会長 近 江 直 人

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