秋田弁護士会

行政手続における個人を識別するための番号の利用等に関する法律」の制定に反対する会長声明

2012年6月25日 公開
1 本年2月14日、政府は、いわゆる「社会保障・税共通番号制」に係る「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案(以下、略称に従い「マイナンバー法案」という)を閣議決定し、国会に提出した。
  この法案は、すべての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号(マイナンバー)をつけ、これらの分野の個人データを、情報提供ネットワークシステムを通じて名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制度、以下「共通番号制度」という)を創設しようとするものである。

2 しかしながら、共通番号制度は、国民の私生活に対する公権力の介入の排除という古典的な意味におけるプライバシー権と原理的に抵触し、同権利に一定の制約を課すものであるにもかかわらず、同制約の合理性を基礎付ける具体的な必要性や利用目的はまったく明らかにされていない上、費用対効果を判断するための費用の概算も効果の試算も公表されていない。加えて、共通番号制度は、今日的意味におけるプライバシー権(自己情報コントロール権)の核心的内容である情報主体の「事前の同意」による情報コントロールを軽視しており、共通番号が納税者番号として個人から事業者、事業者から税務当局への流れの中で広く利用されることに伴い、思わぬところでの個人情報の不当利用や、いわゆる「成りすまし」による犯罪被害が多発する可能性もある。したがって、マイナンバー法案は、プライバシー権を危殆に瀕せしめる制度の拙速な法律化を求めるものといわざるを得ない。

3 共通番号制度により収集、名寄せ、統合等がなされる見こみの情報とは、個人の、医療、介護、保育、障がい、雇用、収入、年金、納税等、多方面にわたり、かつ極めてプライバシー性の高い情報である。
  このような情報が統合され、一覧性を備えることで、情報の種類や情報の流通量が増加することになれば、わずかな情報漏洩が多くの情報の漏洩につながることとなる。上記の様なプライバシー性の高い広範囲の情報が漏洩、濫用された場合の被害は、甚大にして回復が困難である。
  それにもかかわらず、更に政府は、共通番号制度を、将来的には社会保障・税以外の行政分野や、民間のサービス等に活用する場面においても情報連携が可能となるよう設計するとまで述べている。将来的な利用の範囲すら限定されていない状況では、共通番号制度の危険性はもはや想定すら不可能とさえ言える。
  しかも、政府は、このような重大な個人情報の危険に対し、以下のような不十分な保護措置しか検討していない。
  まず、政府は、個人情報保護措置として、「マイ・ポータル」なるシステムを創設し、これによって、特定個人情報へのアクセス記録を、個人自らインターネットで確認可能にする旨述べている。
  しかし、同システムはアクセス記録を事後確認するシステムに過ぎず、上記被害発生の事前防止には資さない上、インターネットの利用自体にそもそも不正アクセスや漏洩の危険があることを考えれば、適切な方策とは思われない。
また、政府は、個人情報の漏洩、濫用を防止するため、第三者機関(個人番号情報保護委員会)を設置し、これによって監視・監督を行う旨述べている。
  この点、同委員会の委員構成は示されているものの組織体制は不明確であり、どこまで実効的に権限行使が行われるか原案からはうかがわれない。

4 しかも、国民のプライバシー権を著しく侵害するおそれがあるにもかかわらず、共通番号制度の内容が国民にほとんどと言っていいほど知られていない。
  政府は、共通番号制度への国民の理解を深めるためと称して、全都道府県において本制度のシンポジウムを開催している。しかし、同シンポジウムの周知自体が不十分であるため、シンポジウムの参加者も、毎回100名前後、東京都等の大都市部においても200名強程度である。
  このようなシンポジウムを行った程度で、国民の共通番号制度への理解が深まったとか国民が同制度を受け入れていると見なすことなど到底できない。

5 以上のとおり、マイナンバー法案が創設しようとしている共通番号制度は基本的人権のうちでも人格的尊厳や自己決定権に深く関わるプライバシー権を著しく侵害し、国民が甚大な被害を受ける危険性があるにもかかわらず、同制度自体が国民において十分理解され、受け入れられているとは到底言えない。それにもかかわらず、導入ありきで拙速に法律化することは、将来に重大な禍根を残すことになる。
  よって、当会は、同法案の成立に反対する。

2012年(平成24年)6月25日
 秋田弁護士会
   会長 近 江 直 人

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