秋田弁護士会

割賦販売法の抜本的改正を求める意見書

2007年5月23日 公開
2007年(平成19年)5月23日
秋 田 弁 護 士 会

意 見 の 趣 旨

 クレジット取引が原因となる消費者被害を抑止し,被害救済の実効性を高めるため,以下の内容を柱とする割賦販売法の抜本的改正を求める。


1 クレジット会社の加盟店管理義務を法律上明記し,その違反に対しては行政上の措置に加え,請求権の制限や損害賠償義務などの民事上の効果を定めること
2 過剰与信の禁止を明記し,その違反に対しては行政上の措置に加えて請求権の制限等の民事的効果を定めること
3 抗弁対抗の効果を,現行の「未払金の支払停止」にとどめず,既払金の返還につき販売業者とクレジット会社が共同責任を負う旨の規制を設けること
4 クレジット取引の規制対象範囲において割賦払い要件及び支払期間要件を撤廃すること
5 同じく,規制対象範囲において指定商品制を撤廃すること
6 商行為に係る取引についての適用除外規定を削除すること

意 見 の 理 由

1 クレジット取引を原因とする被害の実情

 近時,悪質な業者が高齢者や判断能力不十分な者を狙って布団や呉服等の高額商品を購入させたり,住宅リフォームの契約をさせるなどの事件が後を絶たない。
 これらの被害の発生には,クレジットの存在が深く関わっている。すなわち,悪質業者は,購入者が代金を即時に支払えないような場合であっても購入者にクレジットを利用させることで契約させ,自らはクレジット会社からの立替金によって代金を取得している。また,かかるクレジットの申込みを受けたクレジット会社は,販売行為の違法・不当性を看過し,かつ,購入者の支払能力を考慮することなく,次々とクレジット契約を行っている。その結果,支払能力をはるかに超える支払額で多重のクレジット債務を負うといった深刻な被害事例が多発している。
 当地においても,特に呉服の過量販売・次々販売の被害が多数報告されており,被害額も多額に上る。2006年8月には,宮城県に本社を持ち本県に営業所を構えていた呉服販売業者が特定商取引法上に基づく業務改善指導の行政処分を受けたが,被害として県が特定したものだけでも被害額は1400万円を超え,また被害者8人は60歳から78歳の高齢者であった。業者は高齢で判断能力が衰えている者や,明確な拒絶の意思を表示できない者を狙い打ちにしており,そしてその支払にはクレジットが使用されているのである。
 このようにクレジット被害が増加している背景には,クレジット業界において激しい与信競争下にあるクレジット会社が,できる限り多くの加盟店と提携し,少しでも多くの契約を獲得して会社の収益につなげようとする結果,加盟店の審査・管理及び個々の契約に対する審査・調査がほとんどなされていないという実態がある。
 そうした実態は,国民生活センターの2002年4月24日付「個品割賦購入あっせん契約におけるクレジット会社の加盟店問題」と題する報告書においても,「クレジット会社は,販売業者と契約(加盟店契約)して消費者にクレジットを提供するが,相手が問題商法の業者であっても契約していて,それが既述の消費者被害を発生させているのではないかと推測される。クレジット会社が問題商法の業者を裏で支えているのではないか,という疑念」があると指摘されている。また,同センターの2005年3月4日付「クレジット会社の与信問題」と題する報告書では,「消費生活相談の実態をみると,支払能力を超えた過剰な与信,年金暮らしの高齢者や判断不十分者等への不適正な与信等が行われた例が多数見受けられる」とされており,クレジットが問題商法と密接に関わっていること,消費者被害を拡大させる原因となっていることが報告されている。

2 法改正の必要性 

 このようなクレジットによる被害から消費者を守るためには,もともと産業育成法として制定された割賦販売法を,消費者保護の立場から見直し,大胆な改正をすることが不可欠である。具体的には,以下のような法改正が必要である。

(1)クレジット会社の加盟店管理義務を法律上明記し,その違反に対しては行政上の措置に加え,請求権の制限や損害賠償義務などの民事上の効果を定めること
 現行割賦販売法にはクレジット会社の加盟店管理に関する明文規定がなく,旧通商産業省・経済産業省による通達や要請によって,クレジット業界団体を通じた指導がなされているにすぎない。その結果として,クレジットを利用した悪質商法や空売り・名義貸し等のクレジットの不正使用が繰り返されても,クレジット会社による審査・管理はいっこうに強化されず,被害が拡大しているのが実情である。
 クレジット取引においては販売契約と与信契約が密接不可分に作用しており,クレジット会社は提携している加盟店の営業活動によってクレジット契約を獲得する構造となっている。こうした構造から利益を得る立場のクレジット会社は,トラブル防止のため,加盟店の販売活動や契約履行の確実性などを審査・管理すべきである。そしてこの実効性を確保するためには,加盟店管理義務を法律上に明記し,その違反に対する民事上の効果を規定すべきである。

(2)過剰与信の禁止を明記し,その違反に対しては行政上の措置に加えて請求権の制限等の民事的効果を定めること
 現行法においては,クレジットの過剰与信の規制としては,支払能力を超える購入の防止を定めた割賦販売法38条があるのみであり,しかもこれは罰則を伴わない訓示規定とされ,実効性がない。次々販売事例に代表される過剰与信の被害が後を絶たないことからしても,実効性のある過剰与信規制が行われる必要がある。そのためには,与信が禁止される類型並びにその基準を明確化する必要があり,その違反に対しては,改善指示・業務停止命令といった行政上の措置だけでなく,違反した類型に対して民事効果を定めることが必要である。

(3)抗弁対抗の効果を,現行の「未払金の支払停止」にとどめず,既払金の返還につき販売業者とクレジット会社が共同責任を負う旨の規制を設けること
 現行割賦販売法30条の4は,抗弁対抗の効果として,購入者のクレジット会社に対する未払金の支払停止についてのみ規定し,既払金の返還については規定していない。
 しかしながら,支払途中のどの段階で販売契約に関する問題が発生して抗弁主張を行ったかによって保護される範囲が異なるのは合理性がなく,被害救済の足かせとなっている。
 そして,抗弁対抗の効果が未払部分の支払停止にとどまっている結果,クレジット会社にとっては仮に加盟店の販売方法に問題があることを察知したとしても,即座に加盟店契約を打ち切るより加盟店に経営を継続させる方が経済的に有利な構図になってしまっている。そのため,悪質加盟店がクレジットを利用しつつ営業を継続してしまうことによる被害の拡大を防ぎ得ないというのが実情である。
 したがって,被害救済はもちろんのこと,クレジット会社による加盟店管理を徹底させ,不当な契約を継続させることとならないようにして被害拡大を防止するという観点からも,抗弁対抗の効果を,現行の未払金の支払停止から既払金の返還義務に拡大させ,併せて,クレジット会社に共同責任を負わせることが必要である。

(4)クレジット取引の規制対象範囲において割賦払い要件及び支払期間要件を撤廃すること
 現行割賦販売法が規制対象としているのは,「2月以上の期間にわたり,かつ,3回以上に分割して」支払う割賦払いか,「あらかじめ定められた方法により算定された金額」を支払うリボルビング払いのいずれかに限られている。したがって,購入者に支払の猶予を与える取引でも,翌月1回払いやボーナス一括払いなどのような1回払いや2回払いは規制の対象から外れており,その部分についてのトラブルには対処できないのが現状である。
 そもそも,代金支払いが物品の購入後になるというクレジット取引の性格や,販売契約と与信契約の密接不可分性といった特徴に鑑みた規制を行うにあたって,支払回数によって適用の有無を区別することは合理性を欠く。また,このままではこの法の隙間を狙った悪質商法の出現を放置することにもなってしまう。
 したがって,現行法の割賦払要件・支払期間要件は撤廃し,支払方法が後払いまたは延べ払いであるものは規制対象範囲に含めるべきである。

(5)同じく,規制対象範囲における指定商品制を撤廃すること
 現行割賦販売法は政令指定商品制を採用しているため,同法の規制対象となるのは政令で定めた指定商品・指定権利・指定役務の取引に限られるが,上記のクレジット契約の性格・特徴に鑑みれば,取引対象品目によって適用の有無に差をもうけることにもまったく合理性がない。
 したがって,現行法の指定商品制は廃止すべきであり,法規制が不適切な取引品目がある場合には逆に適用を除外するとして規定すべきである。

(6)商行為に係る取引についての適用除外規定を削除すること
 現行割賦販売法は,購入者にとって商行為となる取引を「抗弁の対抗」の適用対象から除外している(法30条の4第4項第2号)。
 しかしながら,個人事業主を中心とする小規模事業者はクレジット取引に関する知識や経験においては消費者と大差がなく,商行為であるからというだけで割賦販売法の適用を除外する合理的な理由はない。また実際にも,ジェイメディア事件やアイディック事件のように,小規模事業者がクレジットトラブルに巻き込まれる危険性は高い。
 したがって,現行法の商行為に係る取引についての適用除外規定は削除されるべきである。

3 まとめ
 以上の次第で,本意見書の内容をもって,割賦販売法の早急な改正を求める。

以  上   
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