秋田弁護士会

出資法の上限金利に違反する金利の約定のある貸金契約の無効を確認する立法及び出資法の上限金利の引き下げ等を求める決議

2003年6月26日 公開
1 出資の受入れ,預かり金及び金利等の取締に関する法律(以下,「出資法」という。)第5条に違反する金利の約定のある,あるいは同条に違反する金利を徴収する貸金契約は無効であり,かつ,貸主は,貸金契約に基づき交付した金員の返還を請求することはできないことを出資法など関連法律の改正により明確にすべきである。

2 出資法5条の上限金利を,少なくとも利息制限法の制限金利まで引き下げ,刑事・民事の金利規制を統一するなどの改正をすべきである。 

3 貸金業規制法43条(みなし弁済規定)を廃止すべきである。

4 日賦貸金業者,質屋,電話担保金融に対する特例措置を撤廃すべきである。

以上のとおり決議する。

2003年(平成15年)6月26日  

秋田弁護士会臨時総会  

(提案理由)
第1 決議1について
1 出資法5条に違反する超高利のいわゆる「ヤミ金融」は,正常な返済が困難になった多重債務者や過去に破産宣告を受けた者ら社会的弱者を狙い,その生活困窮等に乗じて,年数千パーセントもの不法な高金利をもって貸付を行い,暴利を貪っている。その数は全国で数千業者,被害者は全国で数十万人ともいわれており,全国各地で社会問題化している。
 ヤミ金融は,暴利を貪るために貸付額に比して多額の金利の返済を求めることから,いきおいその回収は暴力的なものにならざるを得ない。本人のみならず家族,親戚,友人,知人,隣近所の住居や職場,学校へ脅迫的な取立を行っており,各地で自殺者や夜逃げ,一家離散などの深刻な被害をもたらしている。ヤミ金融が得た莫大な収益は暴力団の資金源となっていることも明らかとなった。

2 このように違法なヤミ金融が社会問題化するまでに増えたのは,第1にヤミ金融により莫大な利益を得ることができること,第2に違法な手段を講じて儲けているのに摘発されるリスクが低いからにほかならない。したがって,ヤミ金融問題を解決するためには,ヤミ金融に不法な利益を得させない,ヤミ金融から不法な利益を剥奪して被害を根絶する対策を確立する必要がある。
 これに関しては,2000年6月の出資法上限金利引き下げよりも以前から各地の弁護士らが被害救済に取り組み,同年8月の民事介入暴力対策秋田大会以後は,「ヤミ金融に不法な利益を得させない。ヤミ金融から不法な利益を剥奪する。」とのスローガンの下に「ヤミ金融には元本を返還しない。ヤミ金融に支払った金員は不当利得返還請求として取り戻す。」との方針で事件処理するほか,積極的に集団的刑事告発をなしてきた。日本弁護士連合会も昨年11月22日にヤミ金融対策法の制定を求める意見書を公表して,①出資法違反の契約無効及び不法原因給付による元本返還不要を立法で明確にすること,②ヤミ金融業者の広告宣伝等の犯罪化,③罰則の強化,④営業保証金制度の導入などの提言をしたところである。一方,警察当局も弁護士らの集団告発を受けて取締りを強化し,政府や与野党においても,ヤミ金融対策法案の検討がされている。
 ところが,政府,与野党のなかには,出資法違反の超高金利の貸金契約を無効とした上で元本の返済を不要とする立法は,悪質な借り手が契約無効を見こして超高金利で借りて返済を免れるなどモラルハザードを招くとか,既にこれを認めた裁判例もあることから現行法でも裁判を通じて解決が可能だとの意見が根強く,導入が見送られるのではないかとの見方があるようである。しかし,そのような意見は,ヤミ金融に追い詰められた被害者が裁判を起こす余裕などない現状への理解に欠けている。しかも,ヤミ金融が犯罪行為であって決して正当な経済活動ではないことを見過ごしており,結果として,モラルハザードに名を借りてヤミ金融の不法な経済的利益を保護してしまうものといえる。
 また,野党案として,年109.5パーセントの利息契約は無効という折衷的な案も検討されているようである。しかし,違法な高金利による契約が一部たりとも有効であるとの解釈の余地を残したならば,国家機関である裁判所が犯罪者集団であるヤミ金融の債権回収に助力することになってしまう。これではヤミ金融対策立法ではなく,ヤミ金融「保護」立法になってしまいかねない。そうなれば,これまで民法90条,708条の解釈により出資法違反契約が公序良俗に違反して無効であり,不法原因給付であるから元本の返還も要しないとの裁判例を積み重ねてきたわれわれの努力が無に帰しかねない。

3 ヤミ金融に不法な利益を得させない,ヤミ金融から不法な利益を剥奪する対策としては,契約無効を立法で明確化することが最も有効な処方箋であることはいうまでもない。違法なヤミ金融の社会的経済的基盤を絶つためにも,出資法5条違反の貸金契約について,貸金契約の無効と交付された金員の返還を認めないとの立法が必要不可欠である。これを欠いたヤミ金融対策立法は,ヤミ金融対策としての効果が余りに限定的であるし,野党で検討されている中途半端な利息無効案は,これまで蓄積された裁判例に悪影響を及ぼすもので,かえって有害無益である。

第2 決議2について
1 商工ローンが社会問題となったことを契機として,2000年6月より出資法5条2項の上限金利が年29.2パーセントに引き下げられた。国会における付帯決議では,施行後3年を経過した時点(本年6月1日以降)で,資金需給の状況その他の経済・金融情勢,貸金業者の業務の実態等を勘案して検討を加え,必要な見直しを行うとされている。

2 長引く不況下,多重債務者は増え続け,昨年の自己破産申立件数は22万件を超え,過去最高を更新し続けている。破産申立までには至らないが,支払困難となっている潜在的多重債務者は150万人から200万人に及ぶといわれている。経済的理由による自殺者が年間6800人を超え,多重債務者を狙った犯罪も多発しており,社会不安をあおっている。多重債務者問題解決の根本的方策が,現在求められているところである。

3 他方,消費者金融業界は,大手を中心に大幅に貸付残高を伸ばし,無担保の消費者向け貸付残高は2002年3月期には20兆円を超えている。業者がこの様に貸付残高を伸ばしているのは,調達金利が極めて低く(大手では年利2パーセント前後),これを年25~29.2パーセントもの超高金利で貸付けているためである。このため,大手消費者金融業者は,貸せば貸すほど利益が上がる構造となっており,利用者の支払能力を無視した過剰融資や返済困難に陥った債務者に対する苛酷な督促・取立の根本的要因となっている。さらに,消費者金融大手を中心に,多数のコマーシャルが毎日たれ流され,大手5社の広告費は700億円に達するといわれる。コマーシャルの内容も,安易な借入をあおるものとなっており,若年層に「消費者金融」の暗いイメージを払拭させ,借金の抵抗感を無くさせる役割を果たしている。これら消費者金融の利息が,利息制限法に違反する高金利であることを視聴者に告知するコマーシャルはない。

4 一方,ヤミ金融被害が多発することについて,貸金業界は出資法の上限金利の引き下げによって,貸金業者が選別融資を行うことにより,リスクある債務者に対する貸付を控えたから,債務者がヤミ金融に手を出すことになった等とし,かえって出資法の上限金利の引き上げを主張している。
 しかし,現在でも若年層で年収が200万円未満でも,200万円以上を借入れることが可能な状況にある。また,金融庁によると,貸金業者の登録件数自体は長期的に減少傾向にあるにもかかわらず,融資残高のある消費者向け貸金業者数は,以下のとおり増加傾向にある。
     2000年3月末  6937件
     2001年3月末  7123件
     2002年3月末  7242件
  更に,消費者向け貸付残高も,以下のとおり増加傾向を示している。
     2000年3月   17兆4778万円
     2001年3月   18兆8292億円
     2002年3月   20兆1197億円
 他方,ヤミ金融から借入れる層は,破産経験者や延滞などをしている多重債務者であり,出資法の上限金利引き下げ前であっても,中小貸金業者ですら貸付を断っていたであろう者が多い。現状においても,それ以外の債務者は十分すぎる与信を受けているのであって,もし中小貸金業者が選別した与信先があるとしても,それらは多重債務者であって弁護士等による法的助言が必要な層である。
 これら消費者向け貸金業者及び貸付残高の増加傾向,ヤミ金融の被害者層を見るに,2000年6月の出資法の上限金利引き下げとヤミ金融被害の拡大との間には因果関係が存在しない。
 ヤミ金融対策としては,ヤミ金融を摘発することや,不法な利益を上げさせないことによって,暴力団への資金の流れを止めることにある。ヤミ金融の跋扈に目を奪われ,本質的な多重債務者を生み出す高金利を引き下げる努力を怠ってはならない。

5 現在,日本の銀行金利は低く設定されている。つまり,銀行の普通預金金利は,年0.001パーセントと超低金利状態が続いている。他方,国内銀行の平均貸し出し金利も年1.865パーセントとこれも超低金利となっている。前述のとおり,大手消費者金融を中心に年2パーセント前後で資金を調達し,貸付を行っていることからすれば,年29.2パーセントという出資法の上限金利はもはや容認出来る状況には無いと言うべきである。
 出資法5条1項は原則として年109.5パーセント,同条2項は貸金業者について年29.2パーセントを超える利息につき刑事罰を科している。その結果,利息制限法の制限利率15から20パーセントと,出資法の刑事罰対象利率との間に狭間が生じている。この様に民事上無効だが,刑事罰の対象にならないという,あいまいな領域(グレーゾーン)が存在することが,多くの貸金業者がグレーゾーン内の利率で貸付けるという実態を生み出し,多重債務者発生の原因となっている。従って,出資法5条に定める利率については,利息制限法と同一の利率とし,同法の制限利率を超える金利の支払については民事上無効とするとともに,刑事罰の対象にもするという統一的処置をすべきである。

第3 決議3について
 貸金業規制法43条は,一定の要件を満たす場合に利息制限法の制限利率を超える利息・遅延損害金の支払を有効な利息・損害金の支払とみなしている。しかし,みなし弁済規定は,本来ならば利息制限法に違反して無効となる利息を容認しようとするもので,同法による利率制限の原則をゆがめるものである。このみなし弁済規定は,消費者金融業者による高金利の貸付とその暴力的取立てが社会的に大きな問題となったことを背景として,1973年に貸金業規制法二法が制定されたときに,これに反対する貸金業界との政治的攻防のぎりぎりの妥協の産物として導入されたものであるが,結局は高金利を容認し,回収困難な不良貸付を認める原因となっており,多重債務者の発生を促進する要因となっている。従って,利息制限法の本来の原則に立ち返り,みなし弁済規定は撤廃されるべきである。
 なお,決議2のとおり,制限利率の民事・刑事の統一が図られるならば,必然的にグレーゾーンの発生の余地は無くなり,その意味でも貸金業規制法43条は無意味な規定となる。

第4 決議4について
 現行法は,貸金業者のうち質屋,日賦貸金業者,電話担保金融について特例を設け,刑罰対象利率を,質屋につき年109.5パーセント,日賦貸金業者・電話担保金融につき年54.75パーセントとした上で,上記利率をみなし弁済規定の上限利率としている(質屋営業法36条,出資法付則8・14項)。しかし,これら例外措置を設ける合理的理由は全くなく,撤廃されるべきである。
                                         以上  
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